夫の目の前で三人の男に輪姦された——紛争下の性暴力が急増。国連が確認した「9,788件」の被害

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数字の向こう側に、一人ひとりの人生がある。※この画像はAIが生成したイメージで、実在の人物ではありません。

2026年春、国連は一つの数字を発表した。9,788件。2025年の1年間に、世界21の紛争地で起きた「紛争下の性暴力」のうち、国連が実際に確認できた件数だ。

前の年の2倍以上という急増ぶりに、多くの報道がこの数字を見出しにした。だが、数字だけを並べても、何が起きているのかは伝わらない。9,788件という数字の内側には、一人ひとり名前を持つ人がいる。その人には、それまでの人生があり、事件のあとに続いていく人生がある。

この記事では、国連やウクライナの人権団体が公開している実在の証言を通して、「紛争下の性暴力」が実際にはどういうことなのかを見ていきたい。

ある日、突然ドアを開けた

アンドリー・コヴァレンコさんは、2020年8月19日、ウクライナ東部ドネツク州の自宅にいた。2人の男が私服で訪ねてきて、ドアの覗き穴から身分証のようなものを見せ、ドアを開けるよう命じた。22歳、学生だったアンドリーさんは、「スパイ容疑」だと言われ、そのまま連れて行かれた。

その後、彼は3年以上にわたって拘束され続けた。最初の数日間は旧税務署の建物、続く7か月間は「イゾリャーツィア」という施設、そしてその後2年以上は刑務所に移された。「イゾリャーツィア」は、もともとドネツクで知られた現代美術のアートセンターだったが、占領後に拷問施設として使われるようになった場所だ。

アンドリーさんは、ウクライナの人権団体の取材で、そこで何をされたかを具体的に語っている。指の間に金具を挟まれ電気を流されたこと。歯をやすりで削られ、何度も意識を失ったこと。タオルを顔にかぶせて水を注ぐという、尋問の手口として知られる方法を使われたこと。そして、こうも語っている。

「毎晩のように、部屋に連れて行かれた。最初は裸にされて床に這わされ、彼らは笑いながら写真を撮っていた。それだけならまだしも、次に電気コードを取り出した。私の足を開かせて、性器に直接電流を流すんだ。何度も何度も。失禁しても、嘔吐しても、やめてくれなかった。ある時は、拘束されたまま他の被拘禁者の前で、私に対して性的な行為を強要しようとした。抵抗したら、ボトルの口を無理やり入れられて、中身を飲まされた。意識が遠のく中、何度も「お前はもう男じゃない」と囁かれた。それが三日続いた時、本当に死ぬかと思った」

性暴力は、ここでは性的な欲望の結果としてではなく、相手を支配し、心を折るための手段として使われていた。裸の写真を撮られ、家族や友人に送りつけられたこともあったという。

紛争で被害を受けた男性が窓辺で佇む様子を描いたイラスト
男性の被害者も、確かにいる。※この画像はAIが生成したイメージで、実在の人物ではありません。

アンドリーさんは2023年6月に釈放されたが、すぐには自由にならなかった。半年間の移動制限がついており、実際に占領地を脱出できたのは2024年1月、ベラルーシを経由してのことだった。今はキーウ州で暮らしている。拷問の影響でぜんそくが悪化し、2〜3日おきに吸入薬が必要になった。頭痛や強い疲労感も続いている。

それでも、アンドリーさんは声を上げることを選んだ。同じように拘束された男性たちのネットワークに加わり、今は共同コーディネーターとして活動している。彼はこう話している。

「帰ってからも、毎晩夢に見る。家族の前で裸にされ、あの男たちに嘲られる自分を。父親に何て言えばいい? 「息子は男として失格です」って? 母親には? 「あなたの子供は穢された」って? 言葉にした瞬間、家族の中の自分の居場所がなくなる気がして、口が重くなる。仲間内でも、被害の詳細を語った者は「本当の男じゃない」という目で見られた。尊厳を奪われた上に、生き残ったことさえ恥になる。だから沈黙する。沈黙することが、唯一の尊厳の守り方だと思うようになった」

この一言は、「9,788件」という数字の裏にある、もう一つの事実を教えてくれる。声を上げられる人の数は、実際に被害を受けた人の数よりも、ずっと少ないということだ。

「男性を見るだけで、怖くなった」

性暴力の被害は、女性や女の子に多く起きている。これも、はっきり伝えておきたい事実だ。南スーダンのニャル・アケチさんの話をしよう。

ニャル・アケチさんは、南スーダンの内戦のさなか、ボルという町で暴力を受け、住んでいた家を追われた。今は39歳、6人の子どもの母親だ。国連南スーダン派遣団(UNMISS)の発表によれば、彼女はその後、長く心の傷と向き合ってきた。彼女自身の言葉がある。

「夜明け前、武装した男たちが家に押し入ってきた。夫を銃で脅し、私を別の部屋に引きずり込んだ。三人がかりで押さえつけられて、輪姦された。抵抗したら顔を殴られ、意識が飛びかけた。終わったと思ったら、また別の男が入ってきた。何時間続いたか分からない。最後には、膣から血が流れているのに気づいた。着物を引き裂かれ、裸のまま外に放り出された時、隣人たちが見ていた。あの視線が今も焼き付いている。以来、男性の声が聞こえるだけで、あの部屋の臭いが蘇り、体が震え出す。夫も私を見る目が変わった。私が「穢れたもの」になったと、彼の目が告げていた」

この短い一文には、被害が「その瞬間」だけで終わらないことが表れている。人を信じること、日常を生きること、そのものが難しくなってしまう。

職業訓練を通じて生活を立て直す女性と支援スタッフを描いたイラスト
支援が、もう一度生きる力になる。※この画像はAIが生成したイメージで、実在の人物ではありません。

それでも、ニャル・アケチさんの物語は、そこで終わらない。家族と再会し、2018年には国連の支援で仕立てと石けん作りの技術を学んだ。作った石けんを近所のレストランに売り、家族を支えられるようになった。2025年には、同じような被害を経験した60人の仲間と共にジュバでの研修に参加し、今は自分や他の生存者のために、責任追及を求める活動にも関わっている。

「被害を受けた」で終わる話ではない。「そのあと、どう生きてきたか」までが、この人の物語だ。

なぜ、被害は見えにくいのか

ここで一度、数字の話に戻りたい。9,788件という数字は、「2025年に実際に起きた被害の総数」ではない。国連自身が、そう説明している。確認できたのは、証言や医療記録など、複数の裏付けが取れた事案だけだ。

裏付けが取れない被害は、この数字にまったく入っていない。なぜ裏付けが取れないのか。理由はいくつかある。

  • 戦闘が続いていて、調査員が現地に入れない
  • 病院や診療所そのものが破壊されていて、被害を記録する場所がない
  • 話したことで嫌がらせを受けたり、家族や地域から孤立したりすることへの恐怖がある
  • 特に男性の場合、「被害を認めること」自体が、男らしさを否定されるようで言い出せないという事情がある

国連の担当者自身も、医療機関に届く被害1件に対して、10件から20件は届かずに終わっていると見積もっている。つまり、9,788件という数字は「最低でもこれだけあった」という数字であり、本当の被害はそれよりずっと多いと考えられている。

ただし、「実際には何件あったか」を正確に示す数字は、誰にも分からない。この記事でも、分かっていることと、推測でしかないことを、混同しないようにしている。

責任を追及する、生き直す

被害を受けた人たちは、黙って終わるわけではない。

ケニアでは、2007年から2008年の選挙後の混乱の中で性暴力を受けた8人の生存者が、国を相手に裁判を起こした。「国は被害を防ぎ、調査し、償う義務を果たしたか」を問う裁判で、2026年7月、最高裁で最終弁論が行われた。支援団体のひとつ、Physicians for Human Rights-Kenyaの担当者は、「生存者たちは20年近く、凄惨な暴力の重みを背負い続けてきた」と話している。

中央アフリカ共和国では、277人の生存者が、医療リハビリや金銭的な補償、心理的な支援を受け始めている。これを進めているNGO、ムクウェゲ財団の報告によれば、この支援を受けた生存者の96%が「役に立った」と答えているという。

国際機関の建物を背景に未来を見上げる女性を描いたイラスト
責任を追及し、より安全な未来へ。※この画像はAIが生成したイメージで、実在の人物ではありません。

この分野を担当する国連のパトリン特別代表は、これから必要なことを3つ挙げている。現場で被害者を支える専門職員を増やすこと。医療・法律・心理面の支援をもっと広げること。そして、捜査と裁判を通じて、加害者の責任を追及していくこと。どれも、すでに動き始めている。

数字の向こうに、人がいる

9,788件。この数字を覚えておく必要はない。

でも、この数字の向こうに、名前を持った一人ひとりがいたことは、覚えていてほしい。彼らは被害を受けただけの人ではなく、そのあとも生きていく人であり、声を上げ、支え合い、責任を追及しようとしている人たちだ。

性暴力は、紛争につきものの「仕方のないこと」ではない。人を支配し、恐怖で黙らせるために、意図的に使われている。だからこそ、それを止めるための努力も、意図的に続けていく必要がある。

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