「レイプツリー」という言葉の起源と実態
「レイプツリー」という呼称は、1990年代後半にアリゾナ州・ソノラ砂漠地帯の国境警備官たちの俗語として使われ始めました。当初は、「密入国者が性暴力を受けた現場に衣服や下着が吊るされていた木」を指す言葉で、それが国境越え時の女性移民の危険象徴としてメディアに取り上げられたのが2000年代初期です。
現場報道では、性的暴行の「証拠」として木の枝に下着やブラジャーが吊るされた場面写真が拡散しましたが、それらのうちには密航業者(コヨーテ)側の〝警告〟や〝支配のサイン〟として吊るされたものもあったとされています。

アムネスティインターナショナルの報告では、メキシコ南部から国境を目指す女性移民の約6割が旅の途中で性的暴行を経験または目撃しています。加害者は密航業者、犯罪組織、腐敗警官が多いです。
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の報告では、北中米移民女性の 31%が強姦を受けた経験あり。現地医療スタッフは「一部女性は事前に避妊注射を受けてから出発する」と証言しています。
加害構造と沈黙の文化
多くのケースで加害者は、密航斡旋人(コヨーテ)や麻薬カルテルの一派です。被害女性を「料金未払い」や「荷物の代わり」として性奴隷的に扱うこともあります。国境警備官や地元警察による性的搾取や暴行の事例も、米国・メキシコ双方で報告されています。
犯行はしばしば録画され、被害者を脅迫して沈黙させるためにSNSや闇市場で流通するケースもあるとされています。

一部の女性移民は、旅に出る前に避妊薬や避妊注射を受けてから出発します。これは「性暴行されても妊娠しないようにするため」という極めて悲痛な〝予防〟です。
国境を越えた後も、被害を訴えると送還される、または報復される恐怖から沈黙を強いられる傾向があります。結果として事件化されにくく、報告数が氷山の一角にとどまっています。
組織的レイプエコノミー
2014年の国境危機期に性暴力が急増。Human Rights Watchは「組織的レイプ・エコノミー」が形成されていると報告しています。
「移民女性が性暴力を受ける」という個別事件ではなく、移民ルート全体に性的暴行が〝経済的・構造的に組み込まれている〟ことを意味します。レイプは偶発的ではなく、ビジネスモデルの一部として機能しているという指摘です。
女性の身体そのものが〝通貨〟のように扱われる経済圏、性的暴行が〝通行税〟のように制度化された領域と化しています。国連の報告によると、レイプは「支払い」「見せしめ」「商品化」の3段階で機能します。
・通行料としてのレイプ
中南米から米国を目指す女性移民の多くが、コヨーテ(密入国仲介人)やギャングに金銭の代わりとして性的奉仕を強要される。
これは「性による支払い(sex-for-passage)」と呼ばれ、女性自身が「通過するための代償」として受け入れざるを得ない状況に追い込まれます。
報告では「おそらく国境を越える女性の60〜80%が、旅のどこかで性的暴行または脅迫を受けている」とされています。
・支配の手段としてのレイプ
密入国業者や麻薬カルテルは、暴行によって移民を沈黙させ、逃亡や通報を防ぎます。被害者を心理的に支配することで、性的奴隷状態や人身取引へ移行させやすくするのです。
一部の女性は、暴行後に「売春宿」や「性的サービス拠点」に回され、長期的に搾取されるケースも確認されています。
・レイプの〝商品化〟
女性が暴行される様子を録画して売買するという事例も存在します。「移民女性を犯す映像」が犯罪組織内部で売買・共有され、暴行行為そのものが利益源になっていると報告されています。
性暴力が〝映像商品〟や〝見せしめのブランド〟になっているという極めて病的な構造です。
被害者たちの証言
以下は実際にレイプ被害にあった女性たちの証言です。

「この道を行く女の人はみんな強姦されます。だから出発する前に避妊注射を打つんです。そうしないと、どうにもならないからです」
メキシコ南部の避難所で聞き取りを受けたホンジュラス出身の女性(26歳)の証言
「五回も強姦されて、どうやって生きろというの? 叫んでも誰も助けてくれなかった。みんな黙って見ている中で私は何度も犯されたんです」
ダリエン地峡を越えてきたベネズエラの女性(23歳)の証言
「あの人たちは私たちを人間だと思っていません。警備員が娘の服を脱がせて、地面に押し倒し、娘をレイプしました。娘はまだ14歳だったんですよ。男性と付き合ったこともなかった……だけど、私たちは誰も声を上げられなかった」
テキサス国境付近で拘束された母親の証言
「お金を払えない女は〝体で払え〟と言われる。抵抗すると銃を向けられる。だから黙って受け入れるしかないないんです。私はせめて口で処理させてほしいと懇願しましたが拒否されました。肛門での性交も強要され、その傷はまだ治っておらず排泄に苦労しています」
コヨーテ(密入国仲介人)に暴行されたエルサルバドル出身の女性(26歳)の証言
「途中でレイプされるのは覚悟していた。怖いのは、そのあとも彼らの〝所有物〟として売られることです。特に容姿のいい女性は、売春宿に売られて、毎日何十人もの男の相手をさせられるんです」
グアテマラから北上中の女性(31歳)の証言

「彼らは私を家に連れて行き、『言うとおりにしなければ殺す』と言いました。男たちは三人いました。私は叫んで逃げようとしましたが、一人が顔を殴り、抵抗する気力がなくなりました。三人全員に強姦され、終わったあと、裸で通りに放り出されました」
ホンジュラスからの移民女性(26歳)の証言
「レイノサに着いたとき、私たちを川向こうに連れて行くと言っていた男たちが『服を脱げ』と言いました。『これがあんたたちの通行料だ』と。渡河の前に、私たちは一人ずつ強姦されました。男たちは、私たちの性器の具合がどうだったか、品評しながら犯しました」
グアテラマからの移民女性(19歳)の証言
「私たちは6人の少女でした。彼らは全員を強姦しました。ひとりは13歳でした。泣いたら銃床で殴られました。全員が床に四つん這いにされ、男たちが順番に私たちを犯していくのです。痛くて泣き叫んでもやめてくれませんでした」
ホンジュラスからの移民グループの女性の証言
「警察も見ていました。誰も止めもしませんでした。彼ら自身もレイプに加わるのです。警官は私たちに顔を見られないように後ろからするのです。終わったあとでこう言われました。『文句を言えば、国に送り返すぞ』」
ニカラグアからの移民女性(27歳)の証言
どうすればレイプツリーはなくせるのか?
「妹は男たちに犯されながらずっと叫び続けていた。けれど列車の音がすべてをかき消したのです」ニカラグアから来た姉は、レイプされた後、行方不明になった妹を今も探している。
女たちの声は、国境の砂に吸い込まれていく。被害を防ぐには、まず闇を照らす灯を増やすことだ。移動中の女性たちが立ち寄れる避難所、無償の医療支援、沈黙を破っても守られる通報制度が必要だ。

政府が、国境を「防ぐ壁」ではなく「守る回廊」に変えられるか。そして、私たちが彼女たちの声に耳を傾けるか。
レイプツリーに吊るされた薄布は、女たちの「恥の印」ではない。声を上げられなかった人たちの、置き手紙だ。

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